令和4年4月掲載分

更新日:2023年04月05日

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考古学の謎を現代科学の力で解明!! 〜「ツタンカーメンの鉄剣」の研究/千葉工業大学チーム〜

令和4年4月28日

 古代エジプト第18王朝(紀元前14世紀) の少年王「ツタンカーメン」の名前は誰しも聞いたことがあるのではないでしょうか。世紀の大発見と呼ばれる「ツタンカーメン王墓」。今回、王の棺に埋葬されていた「鉄剣」の製造方法の謎の解明に取り組んでいた千葉工業大学の主席研究員 荒井 朋子先生に、研究の成果についてインタビューしました。

一言では語りつくせないと存じますが、「ツタンカーメンの鉄剣の研究」について、教えていただけますか。

 私が所属する千葉工業大学惑星探査研究センターと地球学研究センターが合同研究チームを結成し、実際にエジプト考古学博物館に赴きました。

刃先の長さ5センチメートルの印と鉄拳の全体を写した写真

ツタンカーメン王の棺で発見された鉄剣(写真提供:千葉工業大学)

 同博物館にある「ツタンカーメン王の鉄剣」を、ポータブル蛍光X線分析装置を使い非破壊・非接触(=壊さない・触らない)で分析を行った結果、鉄剣の両面に部分的に見られる黒い物質が鉄隕石の硫化鉄含有物であること等(注釈)が判明しました。これは、鉄剣が摂氏950℃ 以下という比較的低温の 鍛造(たんぞう)により製造された事を示しています(通常は1300℃ 程度の高温で加工される)。

 また、鉄剣の「黄金製の束(つか)」の 部分に含まれる微量のカルシウムは当時のエジプトでは使われていなかった「しっくい」が含まれていることも分かりました。

鉄隕石の右側に2センチメートルの印がされた写真

鉄剣の材料と同じオクタヘドライト鉄隕石(千葉工業大学提供)

 さらに、アマルナレターという古文書には「ミタンニ王国(ヒッタイト帝国の隣国、現在のトルコとシリアの国境付近)からツタンカーメン王の祖父(アメンホテプ3世)への贈答品の中に鉄剣が含まれている」と記されており、「ツタンカーメン王の鉄剣」がミタンニ王国から贈答された可能性があるという結論に至ったのです。

(注釈)この他にも、同鉄剣のニッケル元素分布がウィドマンシュテッテン構造(鉄とニッケルを多量に含むオクタヘドライト鉄隕石にみられる特有の構造)をしていることが判明しています。

「考古学の謎を解明する」という、この研究を始めたいきさつを教えていただけますか。

 そもそも“鉄”は、紀元前1900~1200年頃にアナトリア高原(現・トルコ)で栄えたヒッタイト帝国が製造技術を独占しており、ヒッタイト帝国は鉄の武器を持つことで軍事的な優勢を得ていたと考えられていました。それにも関わらず、アナトリア高原から離れた紀元前1330年頃のエジプト新王国時代のツタンカーメン王の棺から“鉄剣”が発見されたことは、謎とされてきました。

 2016年、イタリアの研究チームによる同鉄剣の点分析により、“鉄隕石”が材料であると判明しましたが、製造方法は分かっていませんでした。私たちは、この“鉄剣”の製造方法と起源を明らかにするため、研究を行いました。

この研究で苦労されたことなどを教えてください。

 普段は、隕石試料を切断・研磨し、真空下で電子顕微鏡を用いて分析しています。今回は歴史的に貴重な試料であるため、エジプト考古学博物館に持ち運びができるX線分析装置を持ち込み、分析を行いました。限られた時間の中、普段と違う環境で文化遺産の分析を行うため、終始、緊張感の漂う現場でした。また、非破壊・非接触という制約下で得られた分析精度に限界があるため、データの解釈やデータに基づく私たちの主張を、論文の査読者に納得させることに多くの時間と労力を費やしました。

先生は新聞のインタビューにおいて「研究において隕石学と考古学を融合し、文明論に踏み込む」とのことでしたが、この研究ではいかがでしたか。

上:黄金の柄の部分を点線で囲われた画像、中:刃の中央部分が囲われた画像、下左:黄金の柄の部分をアップで写した写真、下右:刃の部分をアップで写した写真

黄金の柄の部分(千葉工業大学提供)

 隕石学と考古学という一見するとまったく接点のない学問分野を融合することで、人類の文明史の理解に一石を投じる発見ができたことが大きな喜びです。

 今回の研究で示した可能性をさらに検証するため、ツタンカーメン王の鉄剣の「黄金の柄」部分のさらなる詳細な化学分析や、アナトリア高原の遺跡で出土した鉄器の化学分析も進めていく計画です。

このような考古学の謎を解明され、「習志野隕石」等で関心が高い地元・習志野市の皆さんや子どもたちにも一言お願いします。

 今回の私たちの研究で隕石学と考古学が結びついたことで、隕石の分析をはじめ、千葉工業大学惑星探査研究センターで進めている惑星科学の研究や宇宙探査の活動をより多くの人に知っていただくきっかけになれば嬉しい限りです。

 荒井先生は、ご多忙中にもかかわらず快くインタビューに応じていただきました。
 ミステリアスな古代文明の謎を、現代科学の力で解明された研究チームが習志野市にあることは、市民の一人ひとりが大いに誇りを感じ、喜びを分かち合うものと感じました。
 先生と千葉工業大学研究チームの、益々のご活躍とご多幸を祈念しながら取材を終えました。

荒井朋子先生のプロフィール

笑顔が素敵な荒井先生の顔写真

千葉工業大学惑星探査研究センター 主席研究員 荒井 朋子先生

東京都出身
東京大学理学部地学科卒業。同大学大学院理学系研究科博士課程修了。専門は月惑星科学。
大学院在学中、日本学術振興会特別研究員としてNASAジョンソンスペースセンター及びカリフォルニア大学ロサンゼルス校に留学。学位取得後、宇宙開発事業団(現:宇宙航空研究機構)にて国際宇宙ステーション(ISS)の生命科学実験棟や月探査衛星の開発に従事。
退職後は国立極地研究所、東京大学総合研究博物館を経て2009年4月千葉工業大学惑星探査研究センター設立時より現職。
ISSからの流星観測プロジェクト『メテオ』及び日本の次期小惑星探査計画『DESTINY+(デスティニー・プラス)』の主任研究者。2013年に米国南極隕石探査に参加。
2014年に小惑星22106tomokoaraiが命名された。

【取材・写真】広報まちかど特派員 佐藤清志さん

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