谷津貝塚出土墨書土器（習志野市指定文化財）

回転台を使って表面を整えた土師器坏（つき）の外面に、横向きに「中村寺」と記されています。反対側にも判読不能の墨書が記されています。仏教信仰の浸透を示す資料といえます。「中村寺」という名の寺は周辺地域に確認されてなく、新出資料としても重要です。

回転台を使って表面を整えた土師器坏の底面に「神主」（神は禾扁（のぎへん））と記されています。内面・外面が赤く塗られており、著しく摩耗しています。8世紀中葉から後半と考えられ、「神主」という文字史料の中では古いものに数えられます。祭祀を司（つかさど）った人物がいた可能性を示す資料として重要です。

土師器坏の底部外面に「阿...」と記されています（阿以降は欠けていて判読不能）。7世紀末から8世紀前半ころと考えられ、今のところ市内では最も古い墨書土器です。つまり、市内最古の文字史料ということができます。

回転台を使って表面を整えた土師器坏の底面に「國厨（くにくりや）」と記されています。意図的に孔（あな）を開け、一部を打ち欠いており、祭祀に用いられたと考えられます。「國厨（国厨）」とは、「国府の厨房（ちゅうぼう）（台所）」または「国府の厨房が提供した食料による宴会」を意味すると考えられます。下総国府（現市川市国府台）と谷津貝塚の集落との間の関連性を示す資料として重要です。

回転台を使って表面を整えた土師器皿の外面に、複数の「豊嶋」「出」、判読不能の文字を記しています。「豊嶋」は地名なのか人名なのか不明ですが、下総国の葛飾郡に「豊嶋郷」（市川市国府台や、埼玉県松伏町に比定する説がある）という地名があり、関連する可能性があります。

回転台を使って表面を整えた土師器坏の外面に人面が描かれています。破片です。人面墨書土器は、けがれを祓い浄めるためのまじないや、延命祈願のための祭祀に用いられたとする説があります。今のところ市内では唯一の人面墨書土器です。市内最古の絵画資料ということもできます。